日々の診療の中で、更年期世代の女性から最も多く受ける切実な質問は、どの程度の症状になれば病院に行くべきかというものです。私は常に、本人が辛いと感じ、自分らしさが失われていると思った時がその時です、とお答えしています。更年期の症状には驚くほど大きな個人差があり、他人が平気そうに見えても、自分の内面で吹き荒れている嵐は本人にしか分かりません。医学的な境界線を強いて挙げるならば、それはセルフケアの限界を超えた時、具体的には市販のサプリメントを飲み続けたり、生活習慣を改善したりしても、症状が一向に好転しない状態です。特にホットフラッシュが頻発して仕事にならない、動悸がして夜中に不安で飛び起きる、手指の関節がこわばって家事が辛いといった具体的な肉体的苦痛がある場合は、躊躇せずに婦人科を受診してください。また、精神的な側面も非常に重い境界線となります。かつて楽しかった趣味に全く興味が持てなくなる、朝が来るのが異常に怖いと感じる、些細なミスを過剰に悔やんで自分を責め続けるといった症状は、更年期によるホルモンバランスの乱れが脳内の神経伝達物質に悪影響を与えている典型的な証拠です。これらは決して「気の持ちよう」で治るものではありません。病院で行う血液検査や骨密度の測定は、現状を客観的な数値で可視化し、適切な対策を立てるための羅針盤となります。治療をすぐに開始しなくても、現在の自分の身体が更年期のどのステージにあるのかを正しく知るだけで、漠然とした死への恐怖や老化への不安から解放される患者さんは非常に多いのです。更年期は女性なら誰もが通る普遍的な道ですが、その険しさは人によって千差万別です。切り立った崖を素手で登るような無理をせず、医療という信頼できるロープやハシゴを上手に活用してください。私たちは患者さんが人生の大きな折り返し地点をいかに快適に、そして安全に通過できるかをサポートするプロの伴走者です。病院に行くべきかという悩み自体が、身体からの切実な「助けて」というサインであることを忘れず、まずは一度その心の重荷を下ろしにお越しいただきたいと願っています。
専門医が語る更年期の悩みで病院に行くべき境界線