腰痛は、男性よりも女性に多い悩みと言われています。その理由の一つには、女性特有の体の構造や、ライフステージにおけるホルモンバランスの変化が深く関わっています。そして、女性の腰痛の中には、単なる筋肉や骨の問題だけでなく、「婦人科系」の病気が原因となっているケースも少なくありません。もし、あなたが慢性的な腰痛に悩んでいて、整形外科では特に異常がないと言われた場合、一度、婦人科的な視点から原因を探ってみる必要があるかもしれません。女性の腰痛と最も関連が深いのが、「月経(生理)」です。月経前や月経中に、腰が重くだるくなったり、痛んだりする「月経困難症」は、多くの女性が経験します。これは、子宮を収縮させるプロスタグランジンという物質が、腰痛を引き起こすことが原因と考えられています。しかし、その痛みが日常生活に支障をきたすほど強い場合や、年々ひどくなっている場合は、その背景に病気が隠れている可能性があります。その代表格が「子宮内膜症」です。これは、本来、子宮の内側にあるべき子宮内膜組織が、卵巣や骨盤の中など、子宮以外の場所で増殖してしまう病気です。月経のたびに、その場所で出血と炎症が繰り返されるため、激しい月経痛と共に、腰痛や下腹部痛、性交痛などを引き起こします。また、子宮の筋肉に良性のこぶができる「子宮筋腫」も、筋腫が大きくなったり、できる場所によっては、周りの神経を圧迫し、腰痛の原因となることがあります。その他にも、卵巣の腫れ(卵巣嚢腫)や、骨盤内の臓器に炎症が起こる「骨盤内炎症性疾患」なども、腰痛を引き起こす可能性があります。これらの婦人科系の病気が疑われるサインとしては、「腰痛が月経周期と連動している」「腰痛以外に、不正出血やおりものの異常、下腹部痛がある」「鎮痛剤が効きにくい、だんだんひどくなる腰痛」などが挙げられます。このような症状に心当たりがある場合は、我慢せずに「婦人科」を受診してください。超音波検査や内診などで、病気の有無を調べ、適切な治療を受けることで、長年悩んでいた腰痛から解放されるケースも少なくないのです。
熱と蕁麻疹が出たら何科?適切な診療科の選び方
発熱と、かゆみを伴う蕁麻疹が同時に現れた時、多くの人が「この症状は、一体何科で診てもらえばいいのだろう?」という疑問に直面します。皮膚の症状だから皮膚科なのか、熱が出ているから内科なのか。適切な診療科を選ぶことは、スムーズな診断と治療への第一歩となります。この場合、最も最初に受診すべき診療科として推奨されるのは、「皮膚科」または「内科」です。どちらを受診しても基本的には対応可能ですが、症状の出方によって、どちらがより適しているかが変わってきます。まず、「皮膚科」を受診するメリットは、蕁麻疹という皮膚症状そのものに対する専門的な診断が受けられる点です。蕁麻疹の中には、通常の膨疹とは異なる、少し変わった見た目のもの(血管性浮腫や蕁麻疹様血管炎など)もあり、皮膚科医は、その発疹の性状を正確に見極めるプロフェッショナルです。皮膚の症状が非常に強い、かゆみが耐え難い、といった場合には、まず皮膚科で相談するのが良いでしょう。皮膚科でも、発熱の原因を探るために、血液検査などを行ってくれます。一方、「内科」や「総合診療科」を受診するメリットは、発熱という全身症状の原因を、総合的な視点から探ってくれる点です。熱と蕁麻疹の原因として最も多いのは、ウイルスや細菌による感染症です。内科医は、喉や胸の音の診察、血液検査などを通じて、その背景にある感染症を特定し、治療することを得意としています。また、薬剤アレルギーや、膠原病などの全身性疾患が疑われる場合も、内科がその診断の入り口となります。特に、蕁麻疹以外に、関節痛や倦怠感、喉の痛みといった、全身の症状が強く出ている場合は、内科を受診するのがより適切と言えます。小さなお子さんの場合は、まずかかりつけの「小児科」を受診するのが基本です。小児科医は、子供に多い感染症に伴う蕁麻疹の診断・治療に精通しています。どちらに行くべきか迷った場合は、まずはかかりつけの内科医に相談し、そこでより専門的な皮膚科の診察が必要と判断されれば、紹介してもらうという流れが最もスムーズで安心です。
その蕁麻疹、薬が原因かも?熱を伴う薬疹(やくしん)
風邪やその他の感染症の治療のために薬を飲んでいる最中、あるいは飲み終わった後に、熱と蕁麻疹が現れた場合、それは病気の症状ではなく、服用した「薬」が原因で起こる「薬疹(やくしん)」の可能性を考える必要があります。薬疹とは、治療のために使用した薬に対して、体の免疫システムがアレルギー反応を起こし、皮膚や粘膜に様々な症状を引き起こす状態です。その症状の一つとして、蕁麻疹と発熱が同時に現れることがあります。原因となる薬剤は多岐にわたりますが、特に、感染症の治療で処方されることが多い、ペニシリン系やセフェム系といった「抗生物質」や、熱や痛みを抑えるための「解熱鎮痛剤(NSAIDsなど)」は、薬疹の原因として比較的頻度が高いことで知られています。薬疹のやっかいな点は、その発症タイミングが予測しにくいことです。薬を飲み始めてすぐに症状が出る即時型のアレルギー反応もあれば、数時間から数日、場合によっては1〜2週間経ってから症状が現れる遅延型のアレルギー反応もあります。そのため、患者さん自身も、まさか薬が原因だとは気づかないケースも少なくありません。薬疹による蕁麻疹は、通常の蕁麻疹と同じく、かゆみを伴う赤い膨疹(ぼうしん)として現れますが、時に、より広範囲に広がったり、発疹が長く続いたりすることがあります。そして、アレルギー反応が全身に及ぶと、38度以上の発熱や、倦怠感、関節痛といった全身症状を伴うことがあります。ほとんどの薬疹は、原因となった薬を中止し、抗ヒスタミン薬やステロイド薬で治療すれば、速やかに改善します。しかし、ごく稀に、高熱と共に、皮膚が広範囲にわたって赤くなり、水ぶくれやただれ、粘膜のびらんなどを引き起こす、重篤な薬疹(薬剤性過敏症症候群や、スティーブンス・ジョンソン症候群など)に移行することがあります。これは命に関わる危険な状態であり、緊急の入院治療が必要です。もし、薬を服用中に、熱と蕁麻疹が出た場合は、自己判断で薬を飲み続けることは絶対にやめてください。すぐに服用を中止し、処方を受けた医療機関に連絡するか、皮膚科を受診し、お薬手帳を持参の上で、専門医の診断を仰ぐことが何よりも重要です。
感染症が引き金に。ウイルスや細菌と蕁麻疹の関係
蕁麻疹というと、多くの人は食べ物や薬に対するアレルギー反応を思い浮かべるかもしれませんが、実は、蕁麻疹が発症する原因として、最も頻度が高いものの一つが「感染症」です。風邪をひいたり、お腹を壊したりした時に、熱やその他の症状と共に、あるいはそれらが治りかけた頃に、蕁麻疹が出ることがあります。これは「感染性蕁麻疹」または「感染アレルギー性蕁麻疹」と呼ばれ、子供から大人まで、誰にでも起こりうる現象です。では、なぜ感染症にかかると蕁麻疹が出るのでしょうか。そのメカニズムは、体内に侵入してきたウイルスや細菌といった病原体に対する、体の「免疫反応」と深く関わっています。私たちの体は、病原体が侵入してくると、それを異物と認識し、排除するために、白血球などの免疫細胞を総動員して戦いを始めます。この免疫反応の過程で、肥満細胞(マスト細胞)という細胞が刺激され、アレルギー症状を引き起こす原因物質である「ヒスタミン」などの化学伝達物質が、大量に放出されることがあります。このヒスタミンが、皮膚の血管に作用すると、血管が拡張して皮膚が赤くなり(紅斑)、血管から血漿成分が漏れ出して、皮膚が盛り上がります(膨疹)。これが、蕁麻疹の正体です。つまり、感染性蕁麻疹は、病原体そのものが直接皮膚に作用しているのではなく、病原体と戦うための体の正常な防衛システムが、副産物として引き起こす、一種の「巻き添え」のようなアレルギー反応なのです。原因となる感染症は様々です。風邪やインフルエンザ、アデノウイルスといった一般的なウイルス感染症、ピロリ菌感染を含む胃腸炎、溶連菌やマイコプラズマといった細菌感染症、さらには虫歯や歯周病、副鼻腔炎(蓄膿症)といった、慢性的な感染巣が原因となることもあります。通常、このタイプの蕁麻疹は、原因となっている感染症が治癒すれば、自然に消えていきます。治療としては、まず原因疾患の治療を優先し、かゆみが強い場合には、抗ヒスタミン薬の内服などで症状を和らげます。熱と蕁麻疹が同時に出た時、それは体が一生懸命、見えない敵と戦っている証拠なのかもしれません。