その日の始まりは、どこにでもある軽い鼻水と咳でした。一歳になる息子は少し不機嫌でしたが、熱も三十七度台で、私はただの風邪だと思い込んでいました。しかし、夕方になるにつれて咳が次第に湿り気を帯び、夜八時を過ぎる頃には、胸のあたりからゼーゼーという音が聞こえ始めたのです。以前からRSウイルスの怖さは耳にしていましたが、実際に自分の子供がその渦中に置かれると、何が入院の目安なのか、今すぐ救急車を呼ぶべきなのか、判断が揺らぎました。私が最初におかしいと確信したのは、授乳の時でした。いつもなら勢いよく飲む息子が、二口三口飲むたびに口を離し、肩を上下させて呼吸を整えようとしていたのです。その顔は必死で、眉間には深い皺が寄っていました。服をめくって胸元を見ると、呼吸に合わせてお腹と胸の境界が深く窪む陥没呼吸が見られ、私はすぐに夜間診療所へ向かう決意をしました。医師は息子の胸に聴診器を当てると同時に、パルスオキシメーターを指に挟みました。数値は九十一パーセント。通常であれば九十八パーセント前後あるべき数値がそこまで下がっている現実に、背筋が凍る思いでした。医師からは、自力で酸素を取り込む力が限界に来ており、このままでは深夜に呼吸が止まる恐れがあるため、即入院が必要だと告げられました。入院生活は、鼻からの酸素吸入と、ひっきりなしに行われる鼻水吸引、そして脱水を防ぐための点滴の毎日でした。看護師さんは「大人の指の太さほどしかない赤ちゃんの気管支が、ウイルスのせいで浮腫んで狭くなっているんですよ」と説明してくれました。もし、あのまま自宅で様子を見ていたらと思うと、今でも胸が締め付けられます。入院の目安は、単なる熱の高さではなく、呼吸の「深さ」と「苦しさ」にあるのだと痛感しました。特に、泣き声が弱々しくなり、寝てもすぐに苦しそうに目を覚ますような状態は、体力が尽きかけているサインです。入院して三日目、ようやく息子の呼吸からゼーゼーという音が消え、再び笑顔が見えたとき、私は自分の判断が間違っていなかったと確信しました。RSウイルスは、あっという間に肺を攻撃し、小さな体を蝕みます。親ができることは、医学的な知識を詰め込むこと以上に、子供の「呼吸の頑張りすぎ」にいち早く気づいてあげることなのだと、この過酷な経験を通じて学びました。もし、これから同じ状況に直面する親御さんがいるなら、迷わず病院へ行ってください。入院は、子供が安全に呼吸をするための権利を守る場所であり、親が無理をして自宅で抱え込む必要はないのです。