レントゲンやMRIで腰を詳しく調べても、特に異常が見つからない。それなのに、腰の痛みや重だるさが、何か月も、時には何年も続いている。そんな原因不明の慢性腰痛に悩まされている場合、その痛みは、骨や筋肉といった身体的な問題だけでなく、あなたの「心」、つまりストレスや心理的な要因が大きく関わっている「心因性腰痛」かもしれません。私たちの脳には、痛みをコントロールするシステムが備わっています。通常、体から送られてくる痛みの信号は、脳内で適切に処理され、抑制されます。しかし、強いストレスや不安、抑うつ状態が長く続くと、この痛みを抑制する脳のシステムが、うまく機能しなくなってしまうのです。その結果、本来であれば気にならないような、ごくわずかな体の刺激や、筋肉の緊張でさえも、「強い痛み」として感じてしまうようになります。これが、心因性腰痛の基本的なメカニズムの一つと考えられています。また、ストレスは、自律神経のバランスを乱し、全身の筋肉を無意識のうちに緊張させます。特に、腰の周りの筋肉が常に緊張状態にあると、血行が悪化し、筋肉内に疲労物質や発痛物質が溜まりやすくなります。これも、慢性的な痛みを引き起こす大きな原因となります。さらに、「痛みへの恐怖」や「また痛くなるかもしれない」という不安が、さらなるストレスを生み、筋肉をこわばらせ、痛みを増強させる、という悪循環に陥ってしまうことも少なくありません。仕事上のプレッシャー、家庭内の問題、将来への不安など、解決が難しいストレスを抱えている人ほど、このタイプの腰痛に悩まされやすいと言われています。このような心因性腰痛の治療には、通常の痛み止めや湿布だけでは、十分な効果が得られないことが多くあります。重要なのは、痛みに対する考え方や、ストレスへの対処法を変えていくことです。治療の相談先としては、まず整形外科で身体的な異常がないことを確認した上で、「心療内科」や「精神科」、あるいは痛みを専門とする「ペインクリニック」などが適しています。これらの科では、痛みの悪循環を断ち切るための薬(抗うつ薬など)の処方や、物事の捉え方を変えていく認知行動療法、リラクゼーション法の指導など、心と体の両面からのアプローチで、つらい慢性痛の改善を目指します。
ストレスと腰痛の意外な関係。心因性腰痛とは?