「咳と熱が長引いて、病院に行ったのに、すぐにはマイコプラズマ肺炎と診断されなかった」。そんな経験を持つ方もいるかもしれません。マイコプラズマ肺炎は、その診断がつくまでに、ある程度の時間が必要となることがあります。その理由は、この病気が持つ特徴と、診断に用いられる検査方法の特性にあります。まず、初期症状が、他の多くの呼吸器感染症、特に風邪や気管支炎と非常に似ていることが、診断を難しくする第一の要因です。乾いた咳や発熱、倦怠感といった症状だけでは、医師も最初は一般的な風邪症候群として対応することが多いのです。しかし、数日経っても症状が改善しない、あるいは咳が悪化していく、といった典型的な経過をたどることで、初めてマイコプラズマ肺炎の可能性が強く疑われ始めます。診断を確定させるためには、いくつかの検査が行われます。胸部レントゲン検査では、肺炎に特徴的な「淡いすりガラス状の影」が見られることがありますが、初期には変化が乏しいことも少なくありません。最も確実な診断法の一つが、血液検査でマイコプラズマに対する「抗体価」を測定する方法です。私たちの体は、マイコプラズマに感染すると、それに対抗するための抗体を作り出します。この抗体の量を測定することで、感染の有無を判断するのです。しかし、この抗体は、感染後すぐには上昇しません。感染初期(急性期)と、その2〜4週間後の回復期に、二度にわたって採血を行い、その間に抗体価が4倍以上に上昇していることを確認する「ペア血清」という方法が、最も信頼性の高い診断基準とされています。つまり、確定診断がつくまでには、数週間の時間が必要になるのです。もちろん、もっと迅速に診断するための検査もあります。喉の粘膜をこすって、マイコプラズマの遺伝子(DNA)を検出する「LAMP法」や、血液中の抗体の一種(IgM抗体)を測定する方法は、比較的早期に結果が出ます。しかし、これらの迅速検査も、常に100%正確というわけではありません。このような理由から、医師は、症状の経過、診察所見、そして各種検査の結果を、時間をかけて総合的に判断し、診断を下していくのです。治療は、確定診断を待たずに、疑いが強い段階で開始されることがほとんどです。