肩こりの原因というと、多くの人は姿勢の悪さや、筋肉の疲労といった「身体的」な要因を思い浮かべるでしょう。しかし、見過ごされがちでありながら、非常に大きな影響を及ぼしているのが、「精神的」な要因、すなわち「ストレス」です。実は、頑固で慢性的な肩こりの背景には、心の問題が深く関わっていることが少なくありません。私たちの心と体は、自律神経によって密接に結びついています。自律神経には、体を活動モードにする「交感神経」と、リラックスモードにする「副交感神経」の二つがあり、これらがバランスを取りながら、体の機能をコントロールしています。しかし、仕事のプレッシャーや、人間関係の悩み、将来への不安といった、精神的なストレスに長期間さらされると、この自律神経のバランスが崩れ、交感神経が常に優位な状態になってしまいます。交感神経が優位になると、体は常に「戦うか、逃げるか」という臨戦態勢に入ります。血管は収縮し、血圧は上がり、そして、筋肉は無意識のうちに緊張し、硬くなります。特に、首や肩周りの筋肉は、ストレスの影響を受けやすく、常に力が入ったような状態になりがちです。この持続的な筋肉の緊張が、血行不良を招き、結果として、痛みやこりを引き起こすのです。つまり、ストレスによる肩こりは、筋肉が疲労しているのではなく、「脳が筋肉に、緊張し続けるように命令している」状態なのです。このタイプの肩こりは、マッサージなどで一時的に筋肉をほぐしても、根本的なストレス源がなくならない限り、脳からの命令は止まらないため、すぐに元に戻ってしまいます。もし、あなたの肩こりが、整形外科で「骨に異常はない」と言われ、ストレッチをしてもなかなか改善しないのであれば、その原因は、心の問題にあるのかもしれません。不眠や気分の落ち込み、食欲不振、原因不明の動悸やめまいといった、他の自律神経失調のサインを伴っている場合は、なおさらです。このような場合は、思い切って「心療内科」や「精神科」に相談してみることも、有効な選択肢の一つです。心の緊張を解きほぐすことが、結果的に、体のこわばりを解消する、一番の近道になることもあるのです。
たかが肩こりと侮るな。その背景にあるストレス