私は、昔からコーヒーが大好きです。朝の目覚めの一杯、仕事中の気合いを入れる一杯。しかし、いつからか、この大好きなコーヒーが、私の悩みの種になっていました。それは、「飲んだら、すぐトイレに行きたくなる」という、非常に切実な問題でした。特に、午前中の大事な会議前は最悪です。会議が始まる直前にコーヒーを飲むと、開始15分後には、もうそわそわし始めます。「トイレに行きたい」。その思いが頭をよぎった瞬間から、会議の内容は全く頭に入ってきません。額には冷や汗がにじみ、ただひたすら、膀胱の感覚に全神経を集中させることになります。発表者の言葉も、BGMのように右から左へ流れていくだけ。結局、会議の途中で、申し訳なさそうに手を挙げて、席を立つこともしばしばでした。また、長距離のドライブや、電車での移動も、私にとっては大きなストレス源でした。出発前にうっかりコーヒーを飲んでしまうと、高速道路のサービスエリアや、次の停車駅までの時間が、とてつもなく長く感じられます。「次のトイレはまだか」。そればかりを考え、景色を楽しむ余裕などありません。この悩みは、だんだんと私の行動を制限するようになりました。「映画を見る前は、絶対に飲み物を飲まない」「大事な商談の前は、コーヒーではなく水にする」。そうやって、自衛策を講じるうちに、好きな時に好きなものを飲む、というささやかな自由さえ、失われていくような気がしていました。最初は、「体質だから仕方ない」と諦めていました。しかし、あまりの不便さに、一度、泌尿器科で相談してみることにしたのです。医師は、私の話をじっくりと聞いた後、「過活動膀胱のような、病的な状態ではなさそうですね。カフェインに対する感受性が高く、冷えも影響しているのでしょう」と診断してくれました。そして、カフェインの摂取量をコントロールすることや、体を冷やさない工夫、そして「膀胱訓練」という、少しずつトイレを我慢する時間を延ばしていくトレーニング法を教えてくれました。病気ではないと分かっただけでも、心が軽くなりました。今も、私のトイレが近い体質は変わりません。でも、自分の体のメカニズムを理解し、上手な付き合い方を学んだことで、以前のような過度な不安からは、少し解放されたように感じています。