あれは、季節の変わり目、少し肌寒くなってきた秋のことでした。最初は、喉のイガイガと、時々出る乾いた咳から始まりました。「また風邪を引いたかな」と、市販の風邪薬を飲んで様子を見ていましたが、症状は一向に良くなりません。むしろ、咳は日を追うごとにひどくなり、夜中に自分の咳で目が覚めるほどでした。熱も37度台の微熱がだらだらと続きます。一週間が経っても改善しないため、近所の内科クリニックを受診しました。胸の音を聞いた医師は、「気管支炎でしょう」と、一般的な抗菌薬と咳止めを処方してくれました。しかし、その薬を5日間飲んでも、咳は全く収まる気配がありません。会話をするだけで、あるいは少し冷たい空気を吸い込んだだけで、咳が止まらなくなるのです。あまりの咳のひどさに、肋骨のあたりまで痛くなってきました。これはおかしいと思い、セカンドオピニオンを求めて、呼吸器内科を標榜する別の病院を受診しました。そこで初めて胸のレントゲンを撮り、血液検査を受けました。結果、レントゲンには淡い影があり、血液検査でマイコプラズマの抗体価が高いことが判明。「マイコプラズマ肺炎ですね。最初に飲んだ薬は、この菌には効きませんよ」と医師に言われ、ようやく長引く不調の原因が分かりました。そこから、マクロライド系の新しい抗菌薬に切り替えて治療が始まりました。薬を変えると、数日で微熱は下がり、体のだるさは楽になりました。しかし、問題はやはり「咳」でした。薬を飲み終えても、一度始まると止まらない発作的な咳は、その後も一ヶ月近く続きました。仕事中もマスクは手放せず、大事な会議中に咳き込んでしまい、周りに気を遣わせることも度々でした。通勤電車の中でも、周囲の冷たい視線を感じ、精神的にも参ってしまいました。結局、咳が完全に気にならなくなるまで、初発症状から二ヶ月近くかかったと思います。この経験を通して、私は「たかが咳」と侮ってはいけないこと、そして、長引く症状の裏には、専門的な診断が必要な病気が隠れている可能性があることを、身をもって学びました。