マイコプラズマ肺炎は、「子供や若者がかかる、比較的軽い肺炎」というイメージを持たれがちです。確かに、多くの場合はその通りで、外来での抗菌薬治療で回復します。しかし、大人が感染した場合、特に高齢者や、持病を持つ方がかかった場合には、時に重症化し、入院治療が必要になることもあるため、決して侮ってはいけません。大人のマイコプラズマ肺炎が重症化するリスクの一つは、診断の遅れです。前述の通り、初期症状が風邪と似ているため、受診が遅れたり、不適切な抗菌薬で治療が開始されたりすることで、その間に肺炎が進行してしまうことがあります。また、子供に比べて、喫煙歴や、喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)といった、元々の肺の基礎疾患を持っている方が多いことも、重症化のリスクを高める要因となります。肺のバリア機能が低下しているところにマイコプラズマが感染すると、より広範囲に炎症が広がりやすくなるのです。重症化した場合、胸部レントゲンでは、肺全体に白い影が広がるような、重篤な肺炎像を呈することもあります。呼吸状態が悪化し、血液中の酸素濃度が低下すれば、「呼吸不全」となり、酸素吸入が必要になります。さらに重症になると、人工呼吸器による管理が必要となるケースも、稀ではありますが発生します。また、マイコプラズマ肺炎は、肺以外の臓器に様々な合併症を引き起こす「肺外合併症」が多いことでも知られています。これも、大人が注意すべきリスクです。例えば、皮膚に多彩な発疹(多形滲出性紅斑など)が現れたり、中耳炎や髄膜炎、脳炎といった神経系の合併症を引き起こしたりすることがあります。心臓の筋肉に炎症が起こる心筋炎や、関節痛、肝機能障害なども報告されています。これらの合併症は、マイコプラズマそのものが直接臓器を攻撃するというよりは、感染をきっかけに、体の免疫システムが異常な反応を起こすことで生じると考えられています。これらのリスクを考えると、大人のマイコプラズマ肺炎は、決して「軽い肺炎」と決めつけるべきではありません。しつこい咳や熱が続く場合は、早めに呼吸器内科や内科を受診し、適切な診断と治療を受けることが、重症化を防ぐために最も重要です。