「大事な会議の前になると、必ずトイレに行きたくなる」「電車やバスに乗る前は、トイレに行っておかないと不安でたまらない」。特定の状況下で、急に、そして何度もトイレに行きたくなる。しかし、いざトイレに行っても、尿は少ししか出ない。このような症状に心当たりがあるなら、それは「心因性頻尿」かもしれません。心因性頻尿は、膀胱や尿道に器質的な異常がないにもかかわらず、心理的なストレスや不安が原因で、頻尿の症状が現れる状態です。私たちの排尿のメカニズムは、自律神経によってコントロールされています。強い不安や緊張を感じると、体を活動モードにする交感神経が活発になります。この交感神経の働きが、膀胱の筋肉に影響を与え、まだ尿が十分に溜まっていなくても、尿意を感じさせてしまうのです。さらに、このメカニズムには、「予期不安」という心理が、悪循環を生み出す大きな要因となります。一度、大事な場面でトイレに行きたくなって困った、という経験をすると、「また同じことになったらどうしよう」という強い不安が生まれます。この不安が、実際に次の尿意を引き起こし、そして、また「やっぱりダメだった」という失敗体験が、さらに次の不安を強めていく。この「不安→尿意→失敗体験→さらに強い不安」という負のスパイラルに陥ってしまうのが、心因性頻尿のつらいところです。この状態と上手に付き合っていくためには、どうすればよいのでしょうか。まず、大切なのは、「これは病気ではなく、誰にでも起こりうる、心の反応なのだ」と、過度に深刻に捉えすぎないことです。そして、泌尿器科を受診し、過活動膀胱など、他の身体的な病気がないことを確認してもらうと、大きな安心材料になります。その上で、いくつかの対処法を試してみましょう。一つは、「行動療法」です。例えば、「膀胱訓練」として、尿意を感じてもすぐにトイレに行かず、5分、10分と、少しずつ我慢する時間を延ばしていく練習をします。これにより、「自分は我慢できる」という成功体験を積み重ね、自信を取り戻していきます。また、深呼吸や、筋肉の緊張を意識的に緩める「筋弛緩法」、あるいは好きな音楽を聴くなど、自分なりの「リラクゼーション法」を見つけ、不安を感じた時に実践するのも有効です。