全身の広範囲にわたる痛みと、原因不明の倦怠感。線維筋痛症のこれらの症状は、非常に漠然としているため、他の様々な病気と症状が重なり、しばしば診断が困難になります。専門医は、線維筋痛症の診断を下す前に、これらの「似て非なる病気」の可能性を一つひとつ、慎重に除外していく必要があります。患者さん自身も、どのような病気が鑑別の対象となるのかを知っておくことは、病気の理解を深める上で役立ちます。まず、最も重要な鑑別疾患が「関節リウマチ」です。関節リウマチも、全身の関節に痛みやこわばりを引き起こしますが、最大の違いは「関節の腫れ(滑膜炎)」があることです。血液検査でリウマトイド因子や抗CCP抗体が陽性となり、レントゲンや関節エコーで関節破壊の所見が見られるのが特徴です。線維筋痛症では、関節は痛くても、客観的な腫れや破壊は見られません。ただし、関節リウマチに線維筋痛症が合併することも少なくありません。次に、「多発性筋炎・皮膚筋炎」という膠原病も鑑別の対象となります。これは、筋肉そのものに炎症が起こる病気で、全身の筋力低下や筋肉痛が主な症状です。血液検査で、筋肉から漏れ出す酵素(CKなど)の著しい上昇が見られることで区別されます。また、甲状腺ホルモンの分泌が低下する「甲状腺機能低下症」も、全身の倦怠感や筋肉痛、気分の落ち込みといった、線維筋痛症とよく似た症状を引き起こします。これは、簡単な血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べることで、容易に診断できます。慢性的な疲労感が主症状である「慢性疲労症候群」も、線維筋痛症と症状が非常に似ており、両者を合併しているケースも多いとされています。両者の区別は専門医でも難しい場合があります。さらに、ビタミンDの欠乏が、広範囲の骨や筋肉の痛みを引き起こすことも知られています。これも血液検査で確認することができます。その他、うつ病や、様々な神経系の疾患も、全身の痛みを引き起こすことがあります。このように、線維筋痛症の診断は、まるで探偵が証拠を集めていく作業に似ています。様々な可能性を検討し、一つずつ消去していく。この丁寧なプロセスを経て、初めて「線維筋痛症」という診断にたどり着くことができるのです。
線維筋痛症と間違われやすい他の病気