「舌がヒリヒリ、ピリピリと痛む。まるで火傷したみたいだ。でも、鏡で見ても、口内炎も、できものも何もない」。このような、見た目の異常と、本人が感じる強い痛みとの間にギャップがある場合、それは「舌痛症(ぜっつうしょう)」かもしれません。舌痛症は、特に中高年、中でも更年期以降の女性に多く見られる、原因不明の慢性的な痛みを特徴とする病気です。この病気の患者さんを最も苦しめるのは、その痛みが、周囲の人や、時には医療者にさえ理解されにくいことです。検査をしても異常が見つからないため、「気のせいでは?」「精神的なものでしょう」と片付けられてしまい、ドクターショッピングを繰り返す方も少なくありません。舌痛症の痛みには、いくつか特徴的なパターンがあります。痛みは、舌の先端や、両脇の部分に感じることが最も多いです。痛み方は、「ヒリヒリ」「ピリピリ」「ジンジン」といった、灼熱感(しゃくねつかん)と表現されることが多く、一日中、痛みが持続します。しかし、不思議なことに、食事中や、何かに集中している時には、痛みを忘れていることが多いのも、この病気の大きな特徴です。また、味覚の変化や、口の中の渇き、ネバネバ感を伴うこともあります。舌痛症のはっきりとした原因は、まだ解明されていません。しかし、いくつかの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。例えば、ホルモンバランスの乱れ(特に更年期における女性ホルモンの減少)、亜鉛や鉄、ビタミンB群といった栄養素の欠乏、あるいは、脳内で痛みを感じる神経回路に何らかの機能異常が起きているのではないか、という説もあります。また、不安や抑うつといった、心理的な要因が、痛みを増強させているケースも少なくありません。「自分は舌がんなのではないか」という強い不安(がん恐怖症)が、さらに痛みを悪化させるという悪循環に陥ることもあります。治療は、一つの特効薬があるわけではなく、多角的なアプローチが必要となります。まず、歯科口腔外科や耳鼻咽喉科で、舌がんなど、器質的な異常がないことをしっかりと確認し、安心感を得ることが第一歩です。その上で、うがい薬や保湿剤による対症療法、漢方薬、あるいは抗うつ薬や抗不安薬といった、痛みの神経に作用する薬が用いられることもあります。何よりも、この病気を理解してくれる専門医と出会い、焦らずに治療に取り組むことが大切です。
見た目は何ともないのに痛い。「舌痛症」とは?